腰痛情報
「Muscle spindles(筋紡錘)」について
2023年11月1~4日オーストラリア・メルボルンで開催された11th World Congress on Low Back and Pelvic Girdle pain(第11回国際腰部骨盤帯痛学会)に参加・発表してきました。
学会前日10月31日にはワークショップが開催され、私は筋膜(Fascia)研究で世界的に有名なCarla Stecco先生のワークショップに参加しました。
ワークショップや学会の中で特に興味深いと感じた研究が「Muscle spindles(筋紡錘)」※1についてです。
※1 「Muscle spindles(筋紡錘)」
筋紡錘は骨格筋に内包されている感覚受容器です。筋紡錘の主な機能は、筋紡錘の周囲の筋(錘外筋)の長さ変化を受容し、電気信号化することです。筋長の変化はその筋が関わる関節角度の変化と密接に連関しています。従って、筋紡錘からの信号は身体の各部位の相対的な位置を反映しており、このような深部感覚の責任受容器です。
私は「Muscle spindles(筋紡錘)」に注目したことがありませんでした。この機会に皆様にも簡単ではありますがご紹介したいと思います。
興味のある方は文献もご参照ください。
椎間板が変性することで生じる椎間板性腰痛は、背筋の一つである多裂筋の萎縮や固有受容感覚※2障害が生じることが明らかにされています。
※2 固有受容感覚
固有受容覚は自分の身体各部の位置や動き、力の入れ具合などを感じる感覚です。
しかし、なぜ、固有受容感覚障害が生じるかは明らかにされていませんでした。
ワークショップや学会では、羊の椎間板を人工的に損傷した際の多裂筋内の「Muscle spindles(筋紡錘)」の形態変化を調査した研究が紹介されていました。
この研究により、椎間板変性モデルにおいて多裂筋内の「Muscle spindles(筋紡錘)」が構造的変化を起こしていることが明らかになり、椎間板性腰痛などで生じる固有受容感覚障害の一要因である可能性が示唆されました。
椎間板を損傷することで、多裂筋内の「Muscle spindles(筋紡錘)」に変化が生じるなんて不思議ですよね。
今後、「Muscle spindles(筋紡錘)」の形態変化に対してどのような治療が効果的なのか研究が進んでいきそうです。
桐蔭横浜大学成田研究室では、腰痛に関する研究や筋膜に関する研究を行っています。
私たちも研究成果を世界に発信できるように一歩一歩進んでいきたいと思えた学会でした。
神奈川リハビリテーション病院
認定理学療法士(スポーツ理学療法)
腰痛運動療法セラピスト
杉山 弘樹
「腹直筋離開について」
2023年11月1~4日、オーストラリアのメルボルンで開催された【11th World Congress on Low Back and Pelvic Girdle pain】
(第11回 国際腰部骨盤帯痛学会)に成田先生と研究室のメンバーと共に参加・発表してきました。
我々の発表内容は今後、論文化して公開していく予定ですので、今回はDiane Lee先生の発表の概要をお伝えいたします。
Diane Lee先生は整形外科筋骨格系理学療法士(FCAMT)で、カナダ理学療法士協会のウィメンズヘルス分野における臨床スペシャリストです。
『胸郭 総合アプローチ』『骨盤帯 The Pelvic Girdle』の著者としても有名です。
What are the long-term outcomes for diastasis rectus abdominis?
A qualitative research study
腹直筋離解(Diastasis rectus abdominis:DRA)という症状をご存知でしょうか?
左右の腹直筋が正中から過度に開いてしまう、妊娠中や産後の女性に多く見られる症状です。
重度の腹直筋離開があると、産後のポッコリお腹が治らない、お腹に力が入らない、など、美容的・機能的問題が生じることがあります。
海外では理学療法士が介入することが多く、重症例では外科的手術も検討されます。
腹直筋離開は、左右の腹直筋の間の距離、則ち白線の幅である腹直筋間距離(inter-recti distance:IRD)を計測することで、
重症度や治療、介入の効果を判定することが多いです。
以前までは腹直筋間距離の拡大は望ましくなく、狭めるための運動療法などが多く研究されていました。
しかし、2016年にDiane Lee先生とPaul Hodges先生により発表された『Behavior of the linea alba during a curl-up task in diastasis rectus abdominis: an observational study 』において、腹直筋間距離を狭めることよりも、白線の歪みを減少させ、白線の張力を増加させるほうが、より美容的・機能的効果が得られる可能性が示唆されました。
今回、この研究へ参加した被験者たちへのフォローアップインタビューが行われ、腹直筋間距離の経時的変化や腹直筋離開がある女性自身が、
腹直筋離開をどう捉えているか、など腹直筋離開の心理社会的影響も含めて調査されました。
結果、腹直筋離開は多様な生物心理社会的要因を持ち、セクシュアリティに影響を及ぼすような、著しい自尊心の消失を経験する可能性があることが分かりました。
さらに腹直筋間距離に対する長期的介入研究により、トレーニング時間と強度を上げると、歪みは改善することが確認されました。
腹直筋離開に関する研究において、今後は腹直筋間距離だけでなく、歪みの改善についての研究が進むのではないでしょうか。
前述した論文はフリーアクセスです。興味を持たれた方は、是非読んでみてください。
文献
Behavior of the linea alba during a curl-up task in diastasis rectus abdominis: an observational study. J Orthop Sports Phys Ther. 2016 Jul; 46(7): 580-9.
桐蔭横浜大学大学院、成田研究室では、産前産後の腰痛について、継続的に研究しています。
また腰痛運動療法セラピストだけが受講できるアドバンスセミナーでは産褥期について学ぶことが出来ます。
人々の『困った』に対処できる『人』になれるよう、学会で得られた知識、研究で得られた事実、臨床で得られた経験を元に、
成田先生の指導の下、皆様と共に成長し続けたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
理学療法士
腰痛運動療法セラピスト
田中 聡子